鳥海山を眺め、新井田川がまちを横たわり...やがて日本海へと注ぐ――その流路には、往時の北前船舟運による湊町の繁栄を支えた米蔵が軒を連ねていました。
2025年春、その憧憬を今に映して「いろは蔵パーク」が誕生します。
新天地、すなわち新しい世界、新しい活躍の場に込めた酒田のまちへの想いをいろは蔵パーク株式会社代表の高橋剛さんに伺いました。
―酒田市内に大きな商業施設ができるのは数十年ぶりですね。地元の企業有志の運営ということで、地域にとってどのような場にしたいという想いがありますか。
商業施設であって、単なる商業施設ではないといいますか、まちの再生をかけていく場所と考えています。私が酒田で建築業をしながら感じたのは、このままでは酒田のまちの存続が危ういということ。その危機感を持ち始めたことが、いろは蔵を開業する一つの引き金になりました。
―酒田がこのままでは危ないと。
将来人口推計(統計局)で見ると、酒田市の人口は2027年には9万人を切る勢いで、もう2、3年で5千人ほど減る見込みです。人が減れば、働く人が減り、働く場所が減る。人がいないまちからは大手資本もやがて撤退します。そこで困るのが生活です。それでいろは蔵には、生活関連のお店を集めておきましょうと。例えばト一屋さんの「食」、酒田薬剤師会の「健康」といったように。地元だけでできないことは、地域活動に力を入れている無印良品と組んで「衣食住」を用意して。いろは蔵は日常生活の基盤を支える地域のセーフティーガード、防衛拠点となるつもりで取り組んでいます。
―地域の生活を守るための商業的な要素を持つ包括拠点ということですか。
そうです。これから大切になるのは、地産地消。これは食べることに限った話ではなく「人・もの・お金の地産地消」です。例えば一次産業は、米や野菜をつくる人がいなければ食べられない、食べる人がいなければつくる人も減る、といったように、人口減少の影響を大きく受けます。食べものを地域外から買うことはお金が外に流れることですから、地元の店で地元のものを買えば地域内で循環できます。毎日の生活でできるところから始めようという、地域防衛のアクションの場でもあるわけです。
―暮らしには衣食住はもちろん、日々の充実感や豊かさといったことも大切ですよね。そこがいろは蔵のもう一つの目的である「にぎわいの拠点」につながるのでしょうか。
いろは蔵のもう一つの目的は、地域の力を集めることです。いろいろな人が集まって何かを興す、起きる場所にしたいと考えています。地元が結束して、これからみんなで守っていきましょう、進化していきましょう、いろいろなことにチャレンジしていきましょうと。
―サロンのような場でもあるわけですね。どんな人たちが集まるのを期待しますか。
「この指とまれ」で、やる気のある人ならどなたでも。やる気のある人が集まれば元気なまちになって、元気なプラットフォームができていきます。縦横無尽につながりながら、いろは蔵パークから市民活動、経済活動、企業活動も発信していけたらいいですね。まちに暮らす人たちみんなで使い倒してほしいんです。やっぱり、まちは「人」がすべてですから。
―人でいえば、酒田人は「進取の気風」といいますし、いろは蔵という新しい場所で新しいことを始めたり、参画したりしてもらえたらいいですよね。
湊町のいい気質ですよね。新しいものを受け入れやすい。そのぶん飽きっぽいといえば飽きっぽい(笑)。でも、受け入れがないと何も生まれないし再生していきませんから、そういう意味で酒田はいいまちですよ。
これは個人的に思うことですが、多くの湊町のなりたちにはもともとよそ者、すなわち、よそから来て移り住んだ人たちが関わっているんですよね。酒田の三十六人衆もそう。新しい風を吹かせる、そこに秘訣と可能性があるんだと。よそから人を迎え入れるということばかりではなく、地元にいて新しいことをしてみたい人たちも同義です。いいまちは、自分たちでつくっていくという、そんな想いをたくさんの人たちと共有できる場にしたいと思っています。
いろは蔵パーク株式会社
代表取締役 高橋剛