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「いろはのイロハ」最新情報。

December 16, 2024

酒田ケヤキものがたり ~身近な木の、ちょっと気になるお話~

いろは蔵パークのシンボルツリーのケヤキは、酒田商業高校がこの場所に移転した大正6年から生育していたといわれており、100年以上にわたって生徒や地域の人々に親しまれてきました。

市の木にも指定され、私たちにとって昔から身近な存在であるケヤキ。

庄内園芸緑化株式会社の渡部敦さんに、ケヤキの持つ特徴や私たちの生活との関わりについてお話しを聞きました。

―ケヤキは古くから地域の人々にとって身近な存在であり、平成18年には「歴史と伝統、そして伸びゆく市の象徴」として市の木にも制定されています。酒田とケヤキについて、そのゆかりを感じさせる場所やエピソードについて教えてください。

一番有名なところといえば、やはり山居倉庫のケヤキ並木ですね。樹齢はおよそ150年といわれていて、倉庫が建てられた当時、風や日差しから守るために植樹されました。山居倉庫周辺で昔からケヤキ並木がある場所は、かつて蔵が建っていたところも多いのではないかといわれています。

また、少し郊外に出て田んぼ沿いの道路を走っていると、大きな家を囲むようにケヤキが生育しているところがありますよね。あれは屋敷林といって、平野を吹く冬の強い風や夏の日差しから家を保護するために植えられたものです。

そんな風に酒田では昔から“ケヤキは建物を守ってくれる”という認識が根付いていたので、山居倉庫が建てられた際も周辺に植えられたのだと思います」

―山居倉庫のケヤキ並木は観光名所としても高い人気がありますね。ケヤキの持つ特徴や、樹木の専門家から見た山居倉庫のケヤキ並木の魅力についてお聞きしたいです。

ケヤキは枝がほうき状に伸びていきますので、立ち姿が非常に美しいのが特徴です。景観が良く、街並みにもなじむので仙台の定禅寺や原宿の表参道など国内には有名なケヤキ並木が数多くあります。

山居倉庫のケヤキ並木は樹齢約150年という木々の荘厳さに加えて、人の手によって作り出された倉の持つ“直線の美”と自然が生み出したケヤキの“曲線の美”が調和した、独自の景観が魅力的だと感じています。

また、木には一年中葉を付けている常葉樹と秋冬には葉を落とす落葉樹があり、ケヤキは落葉樹になります。春は新緑が芽吹き、夏は深い緑が涼しい木陰をつくり、秋は紅葉して葉を落とし、冬は雪をまとった木の佇まい…という風に、季節の移ろいによって葉や木の様子が変化し、さまざまな美しさが楽しめることも、一年を通じて多くの観光客が足を運ぶ魅力になっているのではないでしょうか。

―ケヤキ並木の美しい景観を保つために、手入れなどはされているのですか。

必要に応じて枯れ枝を落とす程度の剪定は行いますが、木の形を整えるための剪定や手入れなどはしていません。

そのため、山居倉庫のケヤキは自然に育った姿に近い状態だと言えます。自然に伸びるままにしても、きれいな形に育っていくというケヤキの特徴がよく表れていますね。

街路樹としてケヤキが植えられている場合、電線や道路を走る車の妨げにならないように枝が剪定されることがほとんどですから、自然に近い状態が見られるということでも山居倉庫のケヤキは特に見ごたえがあると思います。

―たくさんの樹種があるなかで、酒田で特にケヤキが重宝されてきた理由を知りたいです。

酒田は冬の季節風が非常に強く雪も多いため、暖かい地域に比べると育つ樹木が少ないことが理由としてまず挙げられますね。

地域に適した樹種といえばケヤキのほかに、本間家旧本邸に植えられているタブノキや庄内砂丘の防砂林として植えられてきたクロマツなどがあります。そして木の多くは潮風に弱いため、酒田の、特に海の近くは木が育つにはなかなか厳しい環境だと言えますね。

そんななかで寒さや風にも強いケヤキが屋敷林として重宝され、親しまれていったと考えられます。

また、木も人間と同じように少しずつ環境に慣れていくという性質があります。まちの長い歴史のなかで、ときには人の手も加えられることで地域に適応していったのだと思います。

―市内のさまざまなところで立派に育ったケヤキをよく目にします。木が大きく立派に育つためには、どんな要素が重要なのでしょうか。

樹木が大きく育つためには土壌がとても重要です。木はどんな場所に植えても大きく育つわけではないので、山居倉庫のケヤキがあれだけ立派に育ったのはやはり土が良かったのだと思います。

河川の周辺では木々がよく育つと言われています。川が氾濫することによって土壌に養分が行きわたり、土が肥えていくんですね。

また、植えた初期の段階では水をかけてあげたり、肥料を加えたりといったこまめな手入れが大切になります。人間も子どものうちはいろいろと手をかける必要があるのと同じですね。そうすることで根がしっかりと張っていき、大きく立派な木へと育っていきます。

―いろは蔵パークのシンボルツリーとなるケヤキは、酒田商業高校が現在の場所に移転された大正6年からすでに植えられていたといわれ、地域の人々や多くの卒業生とっても思い出深い大切な木です。建設工事が行われるにあたって、どんな手入れをしていますか。

校舎が解体されて周囲が更地となり、環境が変化したことで木もきっとびっくりしたと思います。

今まで建物で遮られていたところに日が照りつけるようになったので、幹に菰を巻いて乾燥の防止と表面温度が上がり過ぎないよう処置をしています。

木の状態を観察しながら、これから徐々に今の環境に慣らしていく必要がありますね。当たり前ですが、木は自分の不調を訴えることができないので、周りの環境を調べたり、幹や根の状態を見たりするなど、つぶさに観察し、さまざまな要因を考えながら手入れをする必要があります。

学生や地域の方々と協力して保全活動を行うこともありました。人の身近にある木だからこそ、適切に手を加えていくことが大切になります。

―ケヤキについていろいろと教えていただき、ありがとうございます。最後にケヤキを見るうえで、これを知っていると面白いというポイントなどありましたら教えてください。

モミジやイチョウなど多くの木は樹種によって紅葉する色が決まっていますが、ケヤキは赤く紅葉する木と黄色やオレンジに紅葉する木があり、個体によって紅葉の色が異なる珍しい木です。山居倉庫のケヤキを眺めてみると、紅葉の色の違いが分かると思います。

色の違いは環境や土壌ではなくDNAによるものと言われていて、同じ個体であれば違う場所に植えても同じ色に紅葉します。

まちなかでケヤキの木を見つけたら、どんな色に紅葉するのか気に留めておくと面白いかもしれませんね。


庄内園芸緑化株式会社

代表取締役社長 渡部 敦

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